隠れた技と、小さなこだわり
2025.7
みなさんは、
"綿布団"を使ったことがあるでしょうか?
日本人のライフスタイルの変化とともに、
使用する機会が少なくなってきている綿布団。
中には「そもそも見たことがないかも」
という方もいらっしゃるかもしれません。
実を言うと、私自身も綿布団に触れたのは、
子どもの頃に祖父母の家に泊まったときくらい。
普段とは違う寝具環境に
少し緊張しながら眠った記憶があります。
そんな綿布団ですが実は、
吸湿性や通気性に優れた
天然素材から作られていて、
日本のような湿度の高い風土には
とてもぴったりな寝具なのです。
年々利用者は減っているものの、
その使い心地の良さから、
今でも日常的に使い続けている方も、
たくさんいらっしゃいます。
布団職人が一枚ずつ、
手で綿を広げ、縫い、仕立てていく――
そこには日本のものづくりらしい丁寧な仕事と、
代々受け継がれてきた技術があります。
もちろん、布団のつくり方の基本は全国共通。
でも、縫い方や仕上げの工夫には、
それぞれの地域や布団職人ごとの「らしさ」
が込められていて、一つひとつ個性があるのです。
たとえば、縫い方ひとつをとっても、
見た目では気づきにくい”小さな工夫”
が込められています。
今回は、普段はなかなか目にすることのない
「縫い目」や「縫い方」に焦点を当てながら、
睡眠屋の布団職人が、
どんなことをこだわりながら仕立てているのか
をお話していきます。
目次
伝統的な縫製方法の応用
ムダの無い、伝統の技「きせ」
みなさんは、「きせ」という言葉をご存じでしょうか。
あまり聞きなれないかもしれませんが、
これは日本に昔から伝わる縫製の技のひとつ。
着物や浴衣などの和裁に使われる技術です。
「きせ」とは、縫い合わせた布の片方を、
縫い目にほんのわずかにかぶせること。
これにより、縫い目が表から見えにくくなり、
見た目がより美しく整うだけでなく、
擦れや摩耗から縫い糸を守る
という役割も果たしてくれます。
見た目のためだけではない、
長く心地よく使ってもらうための、小さな工夫。
こうした気配りは、
日本人の手仕事らしさを感じます。
実はこの「きせ」という技術、
私たち睡眠屋の綿布団づくりに応用しています。
布団の縫製が終わったあと、仕上げの工程で、
縫い目にアイロンを当てながら「きせ」をかける――
ほんの1ミリあるか無いかの折り返しですが、
これがあるかないかで、布団の仕上がりは大きく変わります。
縫い目の摩耗を防ぎ、より丈夫に、
より長く快適に使っていただけるように。
見えない部分にも丁寧な仕事が施されています。
睡眠屋の綿布団を使っている方で、
「きせ」の存在に気づく方は
少ないかもしれません。
けれども、その見えない気遣いこそ、
睡眠屋の布団職人が大切にしている事なのです。
使い手が、より長く快適に心地よく使えるように。
そんな思いを込めて、今日もまた、
ひとつひとつ丁寧に布団を仕立てています。

より美しい仕上がりにするために
「くけ縫い」で美しく魅せる
「縫う」作業は、
大きく2工程に分かれているのをご存じでしょうか。
一度目の縫製は、生地を裁断したあと。
布団の形にミシンで縫い合わせていきます。
ただしこの時点では、
中綿を入れるために
一辺だけは縫わずに開けておきます。

そして綿入れが終わったあと、もう一度縫う――
ここが、仕上げの肝となる二度目の縫製です。
※↑実際は生地が裏返った状態
ですが、ここでひとつ問題が。
中綿が入った状態では、ミシンが使えないのです。
ではどうするのか?
答えはとてもシンプル。
――布団職人が、ひと針ひと針、手作業で縫っていくのです。
どんな縫い方を採用するか、
は布団職人によってそれぞれ。
正解はありません。
その中で、睡眠屋の布団職人が採用しているのが
「くけ縫い」という縫い方。
この「くけ縫い」は、
着物などでも使われる日本の伝統的な手法で、
縫い糸が表に出ないのが大きな特徴で
そして糸が擦れにくい
という機能面の利点もあります。
職人のこだわりは存在します。
何気ない場所に
布団職人の技と心が、
そっと隠れているのです。
まとめ
綿布団の仕立てには、
目に見えない工夫や、
丁寧な手仕事がいくつも隠れています。
“きせ”や“くけ縫い”といった
日本の伝統的な技術は、
ただ布を縫い合わせるためだけのものではなく、
使う人の暮らしを思い、
より長く心地よく寄り添うための
やさしい知恵でもあります。
そして、それらはきっと、
目立つものではありません。
けれど、
その小さなひと手間の積み重ねが、
綿布団にあたたかなぬくもりを
まとわせてくれるのだと思うのです。
今、睡眠屋の綿布団を使っている人
また、これから使う人
このブログをふと思い出したら
お布団をよく観察してみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました。